心臓病を理解しよう

大動脈解離(解離性大動脈瘤)

大動脈解離とはどんな病気?

大動脈の壁は3つの壁が重なってできています。ベニヤ板のように3層構造になっており、簡単に壁が破れないようになっています。内膜、中膜、外膜とよばれており、中膜はいわばボンドのように内膜と外膜をくっつけているようになっています。その中膜が弱くなって、内膜の一部が裂けて内膜と外膜がはずれるのを、解離といいます。解離した血管は一部が外膜だけになるために、薄くなって瘤となるので解離性大動脈瘤といいます。この解離性大動脈瘤も普通の動脈瘤と同様破裂しやすくなります。また、本来の血管が細くなって、血流が悪くなり様々な症状を引き起こします。解離性大動脈瘤はほとんどが突然起こる病気で、破裂する危険性があり恐ろしい病気の一つです。先ほど説明した動脈瘤を解離性大動脈瘤と区別して、真性大動脈瘤と言うこともあります。

 

 解離の始まり

血管3層構造  解離は三層構造
血管内壁と亀裂 内膜の亀裂と中膜の破たん

解離の進行

解離 正常 正常血管
解離進行2 内膜に亀裂
解離進行3 中膜に進展
解離進行3.5 偽腔の進展と外膜の瘤化
解離進行4 偽腔の拡大
解離進行5 偽腔から真腔への再亀裂

 

 

いろいろなタイプが

内膜が裂けた場所、血管がはずれた場所、破裂出血しているかどうかによって、重症度、治療方法が変わってきます。

 

A型:
心臓に近い上行大動脈に存在するものを言います。破裂により心臓を圧迫し救命できない場合が多く、ほとんどが緊急手術となります。

 

B型:
胸部の下行大動脈から腹部にかけて存在します。破裂する確率が少ない場合は、血圧を下げて安静にすることによって、破裂を防止する事ができます。破裂する危険性がある場合、血流の低下があり腹痛、足の痛みがある場合は緊急手術となります。

 

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原因は?

ほとんどが動脈硬化で高血圧の方に急激に発症する病気です。まれに生まれつき血管の壁(中膜)が弱い病気の方もいます。発症は突然内膜が裂けることによるものですが、急激に血圧が上がったりした場合に発生しやすくなります。

 

症状は?

解離は突然起こります。よって、症状も突然出現します。症状は解離による痛みと、破裂、血管の機能障害による症状があります。痛みは激烈な場合がほとんどです。血管の解離の場所によって、前胸部痛から肩、背部につけての痛みまであります。まれに痛みがほとんどなく無症状のこともあります。破裂した場合はショックによる失神を起こすことから、突然倒れ、命を失う程の激烈な症状を来すこともあります。血管の機能が障害され、たとえば頭の血流が悪くなってた場合、脳梗塞と同じ症状の失神、けいれん、意識障害を起こすこともあります。同じように心筋梗塞、あるいはお腹の血管が詰まって腹痛を起こしたり、足の血管が詰まって足の痛みを来すこともあります。いずれにせよ医者からみると様々な症状を来たし、診断が難しい病気のひとつです。

 

診断は?

診断が難しいと言いましたが、この病気ほど的確かつ迅速な診断が必要な病気はありません。われわれは救急患者を診る場合常にこの病気を考える必要を肝に銘じていますが、発生頻度がまれなために忘れがちになることもしばしばです。

心電図

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  心臓が脈を打っている電気信号を記録するわけで、これで全てが分かるわけではありませんが、心筋梗塞を合併した場合に心電図に異常を認める場合があります。

胸部レントゲン検査

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  急性大動脈解離が胸部レントゲン検査で判明することはありません。しかし、心電図と同じで簡便ですぐできる検査であ り、非常に有用な場合があります。破裂で心嚢内に出血している場合には心拡大を認め、上行大動脈の拡大によって縦隔が拡大していることがあります。確定診断ではなく疑いがあればCT検査をする必要があります。

心臓超音波検査

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  緊急の場合、ショック状態等で素早く診断したい場合にプローベを胸に当てて容易に検査ができますが、診断が困難な場合もあります。破裂して心臓へ出血しているかどうかの診断には適しています。大動脈が解離しているかどうかもある程度分かります。

 

CT検査

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  解離の確定診断にはCT検査が欠かせません。ショック状態の場合、意識低下の場合ではCT検査を容易に行えない場合もありますが、必須の診断ツールです。 造影CT検査がベターですが単純CTでもある程度わかります。解離の範囲、程度、血流の異常の診断、破裂の部位と程度等すべての情報が分かります。

 

造影検査

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  急性大動脈解離の診断は難しく最初に心筋梗塞と初期診断されて冠動脈造影検査で解離が判明することも時々あります。解離による下肢は内臓臓器の血流低下を疑い造影検査をすることもあります。
   

血液検査

血液検査だけで急性大動脈解離を診断することは不可能です。しかし炎症所見のデータの上昇がみられること、出血により貧血が見られることがあります。

 

治療しないとどうなるの?

大動脈瘤と同じで、破裂により出血を来すことがあります。しかも、緊急です。血管がはげることにより、血管の機能が障害される場合、たとえば心筋梗塞、脳梗塞、虚血性腸炎、腎不全、下肢の血流障害が起こった場合も何らかの治療をする必要があります。いずれにせよ、このような合併症が起こった場合、命に関わってきます。
タイプがB型である場合、破裂する危険性が少ない場合、血管の機能が正常である場合には血圧を下げて安静にすることにより、危険を脱する場合があります。

 

どんな手術?

血管が裂けて破裂している血管、或いは破裂しそうな血管を人工血管に置き換える手術です。ほとんどが、心臓、脳に近い上行大動脈を人工血管に置き換えるので、大がかりな手術となります。人工心肺装置を用いた体外循環を行い、心臓を停止させたり、脳への血流を一時的に遮断して、人工血管に置き換えます。背中にある胸部下行大動脈は開胸して行い、人工血管に置き換えます。吻合する血管も解離している場合があり、解離部分を修復するものの、血管の壁は弱くなっており、手術後の出血が最も心配です。

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手術の危険性は?

解離性大動脈瘤のタイプ、緊急かどうか、破裂しているかどうかによって危険性も違ってきます。ほとんどが緊急であり、血管の壁も弱くなっており、手術の危険性も高くなります。死亡率は15%から25%と言われています。当院では年間60例以上の急性大動脈解離の手術を行っており、死亡率は13%です。
合併症としては術後の出血、心機能が低下すること、脳合併症(脳梗塞)が重大な合併症であります。タイプBでは、さらに脊髄麻痺、呼吸の合併症を起こす場合があります。

 

 

カテーテル治療はできるの?

大動脈瘤と同じで、基本的には手術です。タイプBで破裂の危険性が少ない場合は、約2週間、血圧を下げて安静にすることで、破裂を予防する事が出来ます。

ステントグラフト手術:タイプBの場合に解離して血管が細くなったり破裂しそうな時に部位によってはカテーテルによるステントグラフト手術を行うことがあります。しかし、さらに解離が進行したり血管が裂けることもあるので時間をおいて行ったりすることもあります。

 

 

術後の注意は?

解離性大動脈瘤にかかり、手術或いは安静治療で退院した方は、今後も引き続き経過観察が必要です。解離した血管は手術を行っても、すべてを人工血管に置換する事は出来ません。また安静療法で破裂の危険がなくなっても、解離そのものが消失したわけではありません。すくなくとも血管が膨れて破裂することはなくなったのですが、今後徐々に拡大して再破裂する可能性もあります。半年あるいは年に1回CT等にて解離の悪化がないか経過観察する必要があります。残りの残存している解離している大動脈が明らかな拡大傾向あるいは5.5cm以上になれば治療を考慮します。治療は解離の状態、前回手術方法によりステントグラフト治療あるいは人工血管置換手術(オープンステントグラフト法)になります。患者さんの年齢、状態を考慮して治療法を決めます。

 

 

予防は?

解離は突然起こるものですが、原因はほとんどが動脈硬化と高血圧です。よって予防は動脈硬化の予防となります。高血圧、糖尿病、高脂血症、肥満の是正を行い、激しい運動をひかえ、急激な寒冷にさらされたりしないようして血圧を急に上げないようにする事が大事です。