心臓病を理解しよう

心臓血管病の予防

日本人は心臓血管病になりにくい?

日本人の平均寿命は男性78歳、女性85歳です。死亡原因は30%が癌、15%が心臓病、14%が脳疾患です。また、心筋梗塞の発生率は1万人に1~4人といわれています。北国ほど高く、男性は女性の3倍ほどであります。欧米では日本の20倍近い発生率です。このデータから、我々日本人は動脈硬化による心臓病にはかかりにくく、世界一健康な国民といえます。しかし、食事の欧米化、生活習慣の変化により心臓血管病は増えているとも言われています。

心臓血管病の中でも狭心症、心筋梗塞、大動脈弁狭窄、動脈瘤、閉塞性動脈硬化症の原因は動脈硬化がほとんどです。心臓や血管の病気は時間とともに知らず知らずの内に徐々に進行します。そして突然苦しくなって判明することがよくあります。またカテーテル治療や手術を行ってお元気になっても、再発することもあります。そのため、動脈硬化の予防、再発の予防は非常に重要です。このような心臓血管病にならないように、あるいはなっても長生きできるようにするにはどうすればいいか?いつまでもお元気に人生を楽しんでいただくために以下のことに気をつけましょう。

 

 

動脈硬化とリスクファクター

他の章でもお書きしましたように、狭心症、心筋梗塞、動脈瘤、閉塞性動脈硬化症の原因は動脈硬化です。動脈は1秒たりとも休まず働いており、動脈の血管は時間ととも年とともにに少しずつ傷んできます。動脈硬化とは逆に血管の年輪であり生きぬいてきたという証しでもあります。それは血管の壁に本来の弾力性がなくなり、硬くなってくることをいいます。それだけではなく血管の壁に傷がついたり、肥厚してきて内腔が狭くなってきます。このような血管が少しでも長持ちするように、天寿を全うするまでなるべく正常な機能でいられるようにする必要があります。

そこで、動脈硬化になりやすい病気や因子をなるべく取り除くことが大事になります。この因子をリスクファクターと呼んでおります。以下に一つずつお話します。このような動脈硬化は徐々に起こってきますが、以下のリスクファクターがある場合は早く進行すると言われています。高血圧、糖尿病、高脂血症、肥満、喫煙、ストレス、運動不足、高齢化であります。このように動脈硬化になりやすい因子として以上をリスクファクターと呼ばれています。われわれも初めて診察させて頂いた場合に必ず確かめる項目の一つであります。これらが何故動脈硬化を引き起こすのか、そしてこれらの治療についてお話します。

 

 

リスクファクター : 高血圧

血液が血管内を流れていく場合、血圧が高いということは、血管の壁に高い圧力がかかっているということです。水道管の圧力を上げないと、水が出なくなっている状態のようなものです。高い圧力が常にかかっていると、血管は更に硬くなって動脈硬化が更に進行します。また、心臓も高い圧力でもって血液を全身に送らなければならないので、心臓にも負担がかかってきます。さらに動脈の壁がもろくなって逆に動脈瘤となることもあります。あるいは血管の内壁が傷つき、大動脈解離を来しやすくなります。

 

臨床データから言えること、

  1. 高血圧の患者を降圧薬で治療したグループは何も治療しなかったグループと比べて、
    脳卒中の発生率が約1.5倍に増加したという報告があります。
  2. 高血圧の患者を降圧薬で治療したグループは何も治療しなかったグループと比べて
    心臓発作を14%低下させたという報告があります。
  3. 高血圧の患者さんに対し、降圧薬での治療をした場合、平均で140/83mmHgが
    もっとも心臓発作または血管病を起こさなかったという報告があります。

 

以上より、高血圧の患者さんは血圧を150/90mmHg以下にしていただくように、治療をする必要があります。血圧を正常におさえることによって将来の心臓血管病を予防する事が出来ます。

 

 

高血圧の診断

血圧計で血圧を測定することによって診断できます。血圧は時間とともに変化します。高い時もあれば低い時もあります。特に病院で測定する時は緊張するために高くなるときがあります。家庭内あるいは病院外の施設で備え付けの血圧計で自分の血圧を測定する事をお勧めします。血圧がいつ測っても150/90mmHg以上の場合高血圧と診断します。年令とともに血圧は上昇しますので、年令も考慮します。

 

 

高血圧の治療

まずは食事、運動療法を行います。血圧が180/100mmHg以上の場合、高血圧が原因で頭痛、胸痛などの症状がある場合は薬を飲む必要があります。血圧を下げる薬いわゆる降圧薬は多くの種類があります。降圧薬にも副作用もあり、血圧は下げすぎてもむしろ危険な場合があります。主治医と相談してください。

 

 

リスクファクター : 糖尿病

血液中の糖の濃度(血糖値)が異常に高い病気です。食生活、運動不足等の生活習慣の変化により、最近非常に増加している病気です。血糖値が少しくらい高いからといって、痛くも痒くもありません。しかし長年の高血糖は血管を傷つけ体内の全ての臓器に障害を与えます。糖尿病によって、心臓の冠動脈が閉塞を来したり、心臓の筋肉そのものの動きがわるくなったりすることがあります。心臓以外に腎臓、目(網膜)、皮膚(壊死)などが徐々に悪くなることがありますが糖尿病からくる血管障害と言われています。

 

臨床データから言えること

  1. 日本のとある町での集計ですが、糖尿病の患者さんは正常の患者さんと比較して
    心臓発作、脳卒中の発生率が3倍高かった。
  2. 糖尿病患者で血糖管理を厳格に行ったグループでは心臓発作が半分近く減った。

 

糖尿病の診断

血糖値の測定で診断します。血糖値も食事、時間によって変動します。よって、変動しても長い期間に血糖値が常に高いかどうかの指標としてヘモグロビンA1c(HbA1c)があります。また糖分を摂取して血糖値が異常に高くなるかどうかで診断します。

 

糖尿病の治療

まずは食事運動療法からはじめます。血糖が異常に高い場合には薬を飲む必要があります。薬でも効果がない場合はインスリンを皮下注射する治療があります。

 

 

リスクファクター : 高脂血症

食事、運動不足等の生活習慣の変化により、糖尿病と同様最近増加している病気です。高脂血症は血液の中に溶けている脂質(血清脂質という)が異常に多い状態であり、血清脂質にはコレステロール、中性脂肪(トリグリセライド)、リン脂質、遊離脂肪酸などがあります。体内で非常に重要な働きをしていますが、コレステロール、中性脂肪等が多くなると動脈硬化を引き起こします。これらのなかで、動脈硬化にとって善玉コレステロール(HDLコレステロール)と悪玉コレステロール(LDLコレステロール)があります。HDLコレステロールは血液中のコレステロールを回収し血液中のコレステロール濃度を下げます。LDLコレステロールはコレステロールを運び届け、血液中のコレステロール濃度を上げます。脂肪分の多い食事により血液中のコレステロール濃度が異常に高くなる病気です。コレステロールは血管の壁に張り付き血管の狭窄を来たします。

 

臨床データから言えること

  1. レステロールの高い患者さんで、コレステロールを下げる薬を服用したグループはしなかったグループと比べ心筋梗塞が半分近く減った。

 

 

高脂血症の診断

血液中のコレステロール、中性脂肪、HDLコレステロール、LDLコレステロールの濃度を測定して診断します。これらも食事や時間によって変動します。正常より高いからと言って直ぐに診断するのではなく、食事に注意をしていきながら検査結果を見ていきます。

 

高脂血症の治療

まずは食事、運動療法を行います。それでも効果がない場合、コレステロール濃度等が異常に高い場合は薬を飲む必要があります。動脈硬化による心臓血管病がある場合も薬をなるべく飲む必要があります。それでも効果の無い場合や重症な心臓血管病を合併する場合、コレステロール濃度が異常に高い場合にはコレステロール吸着療法(血液を体外に出しコレステロールを抜き取り体内へ返却する)もあります。

 

 

リスクファクター : 肥満

死の四重奏とは糖尿病、高脂血症、高血圧と肥満です。肥満でも上半身型の肥満は要注意です。食事、運動でなるべく理想の体重に戻す事が大事です。標準体重は(身長-100)×0.9と言われています。あるいは18から20歳の頃の体重です。この標準体重に近づけるように、努めることが動脈硬化の予防につながります。1Kgの体脂肪は7000kCalのエネルギーがあります。これを消費あるいは減量する事は強い意志と地道な努力が必要です。

 

 

リスクファクター : 喫煙

喫煙者の心筋梗塞になる確率は非喫煙者の2倍以上です。しかも肺がんの発生率は更に高くなります。現在日本の喫煙率は男性53%、女性14%で、ほとんどが20歳までに習慣化され、年をとってからタバコをはじめる方はほとんどいません。タバコがやめられないのは、依存症によるものです。タバコを吸っている人の隣にいるだけでも、体内への影響が深刻であるとの報告もあります。禁煙に対しても強い意志と地道な努力が必要です。当院では禁煙治療を目的とした投薬治療を行っています。ご相談ください。

 

 

リスクファクター : ストレス

極端な例ですが、阪神大震災の時は心筋梗塞の発生率が2倍になったという報告があります。世界中の大地震、戦争でも同じような報告があります。このように耐えがたいストレスは、交感神経を異常に興奮させます。これによりホルモンのバランスがくずれ、血圧上昇、不整脈、腎臓病を来し、心臓発作の引き金になります。

 

 

リスクファクター : 運動不足

運動を長年行っているグループは、行っていないグループと比べ心筋梗塞の発生率が低くなったという報告があります。運動能力が高まり、日常活動が楽になるばかりでなく、総コレステロールが減り、善玉コレステロールが増加すると言われています。狭心症発作や心不全症状が軽くなる、心臓病の再発や突然死が減るとも言われています。また、糖尿病に対する運動療法は現在注目を集めており、運動そのものが苦痛のない最高の治療であると言えます。

 

 

リスクファクター : 高齢化

血管の動脈硬化は木の年輪と同じであります。年とともに血管は年輪を刻むものかも知れません。よって時間とともに動脈硬化は進行していると言わざるをえません。よって、御高齢の方はたとえ健康で症状が無いといえども、心臓血管病、動脈硬化の健康診断をお勧めします。

 

 

リスクファクター : 性格

人間の性格をA型とB型に分けた場合A型人間に狭心症心筋梗塞が2倍多いと言われています。
A型とは几帳面で周りの社会や組織に気を配るタイプであります。社会にとっては無くてはならない大事な存在で、重要なポストで活躍されている方に多いとも言われています。たまにはリラックスしたり社会から離れた生活を作られるのもどうでしょうか。

 

 

生活を変えよう

生活習慣とは皆様の慣れの問題です。食事、運動、趣味も皆様が少しずつ変えることによって苦痛なくできるようになると思います。ストレス無く生活週間を健康のために変えていくことが重要となってきます。このホームページを見られている方は、健康に興味があるのですから、できるはずです。

 

 

食事の仕方を考え直そう

食事を楽しむ。
多様な食事を。
規則正しく食べる。
間食、夜食は控えましょう。
朝昼の食事をしっかり食べて夕食は少なめに
早食いはしない。
やけ食いはしない。
野菜、果物、牛乳、豆類、魚を十分。
体重を測りましょう。
新しい料理、食事に挑戦しましょう。

 

高血圧予防のための減塩

高血圧予防のためにも1日10g以下の食塩摂取に努めましょう。
塩分の多い食品(減塩食品もあります)
食塩、味噌、醤油、漬物、梅干、干物、かまぼこ、ハム、ベーコン、外食、ポテトチップ、せんべい、トマトジュース、野菜ジュース、麺類の汁
これらも減塩食品が多くでてきました。なるべく減塩食品を食べましょう。
減塩以外で味を出す。
鮮度のいい食品そのもので調味料を使わない。
だし汁、レモン、すだち、しそ、しょうが、唐辛子、わさび、カレー、コショウ

 

高脂血症予防のための食事

コレステロールを多く含む食品はなるべく控えるべきと思いますが、コレステロールの体内吸収、貯蔵には個人差があります。脂肪の多い食品でもいいもの(不飽和脂肪酸)と悪いもの(飽和脂肪酸)があります。また、糖分の多いものも体内でコレステロールに変わります。コレステロールを下げる食品も多くあります。正しく理解して食生活を楽しみましょう。
血液コレステロールを上げる食品
肉の脂身、卵、レバー、バター
魚卵、うなぎ、あなご、
佃煮、塩辛
また、イカ、タコなどはコレステロールが多く含まれますが、他にコレステロールを下げるタウリンが含まれており、必ずしもコレステロールを上げる食品ではありません。卵もコレステロールの多い食品ですが、良質のタンパク、ビタミン類が含まれており1日1個は食べたいものです。
動物の肉、植物、魚にはそれぞれ違った脂肪が含まれています。動物には飽和脂肪酸、魚には不飽和脂肪酸が含まれており、動物の飽和脂肪酸は高脂血症を来たしやすいと言われています。肉の油やバターなど動物性脂肪には飽和脂肪酸が多く含まれており、コレステロールの合成を促進し、血中コレステロール値を上げてしまいます。一方、イワシ、サバなど青身魚や、オリーブ油、サラダ油などの植物性脂肪に多く含まれている不飽和脂肪酸には、コレステロールの排出を促進して、血中のコレステロールを下げる働きがあります。

血液コレステロールを下げる食品
大豆及び大豆加工品:大豆、豆腐、納豆
魚肉類:さば、いわし、あじ、まぐろ、かつお
植物油:べに花油、ひまわり油、コーン油  
種実類:アーモンド、ごま、くるみ
穀類:大麦、オートミール、玄米、とうもろこし 
野菜類:ほうれん草、にら、にんじん、トマト
きのこ類:しいたけ、えのきだけ、
海藻類:わかめ、昆布、ひじき、のり
果物類:バナナ、りんご、いちご、柑橘類

特に食物繊維は体内で消化されないので、胃腸を掃除する働きをし、便秘を予防します。また、
LDLコレステロール(悪玉)を低下させ、HDLコレステロール(善玉)を増加させます。
料理法に工夫を
脂肪分の多い肉は薄切りで、かつしゃぶしゃぶ、網焼きで
魚は厚切りで、卵は出し巻きで

 

糖尿病予防のための食事

必要なカロリー以上の摂取は糖尿病ばかりでなく高脂血症、肥満の原因になります。
1日の必要カロリー =30キロカロリー×標準体重、標準体重=(身長-100)×0.9と言われています。身長170cmの場合約1800Kcalです。毎日の食事ですからカロリーを気にして食事をとられることをお勧めします。
脂肪の取りすぎもよくありません。食物繊維を多く含んだ食品は糖尿病にも効果があります。3食規則正しくとるのも効果的です。

 

飲酒

健康に障害のないアルコール量は純アルコール量30ml(24g)程度といわれています。これは日本酒なら1日1合、ビールなら1日1本です。アルコールは決して健康に害のある食品ではありませんが、動脈硬化のリスクファクターのある方には必ずしもお勧めできません。暴飲暴食深酒はやめましょう。

 

運動

1日200~300kCalの運動が必要です。これは1日1万歩の歩行、30分のジョギングに相当します。脈拍数は約110/分まで上昇する程度に行ってください。
運動の中でも有酸素運動と無酸素運動があります。
有酸素運動(エアロビックス)はしっかり呼吸しながら持続的な運動を行うもので、散歩、ジョギング、自転車、水泳などです。息がはずむ程度で無理をしない運動を長く続ける事が重要です。体の脂肪を効果的に燃やし、糖尿病予防などにも効果があります。心臓にも過度の負担をかけません。
逆に無酸素運動は息をこらえて力を一瞬に出す運動で懸垂、腕立て伏せ、バーベル、ゴルフのスイング等です。心臓に急激に負担がかかりますので十分な準備を行ってから無理をせずに行ってください。健康な方にはもちろん問題はありません。
また運動の中でも体を動かす運動は全身の循環をよくして心臓血管病の予防に有効と思われます。

 

ストレスの無い生活

動脈硬化のリスクファクターの一つにストレスがあります。ストレスの少ない生活をおくるのも動脈硬化の予防につながります。以下の生活をお勧めします。
ストレスに気づく。
睡眠
入浴
旅行
趣味
楽しみや生きがいを見つけよう
憩いの場を作ろう
楽しく無理のない社会参加
趣味を見つけよう
新しい趣味、学習、スポーツ、会に挑戦する

 

動脈硬化の予防には人一倍頑張っているのに

生活習慣や食事には人一倍気を使っているのに、心臓血管病になってしまった。
このような話はよくあります。動脈硬化にはもちろん体質もあります。また、きっちり生活食事をおこなってもなんらかの落とし穴があったり、解明できない原因もあります。神経質になりすぎるのもストレスとなり動脈硬化を起こすとも言われています。生活習慣も厳格にする必要はありません。食事制限等も極端に行うのはむしろ危険です。また、特別な健康食品にばかりに頼るのも意味がありません。
神経質にならずに無理せずに生活を送るのも一つです。

 

 

まとめ : これだけは守ってください

糖尿病、高血圧、高脂血症に気をつける。
禁煙。
暴飲暴食はやめる。
体重増加に気をつける。
1日最低30分の軽い運動、歩行を行なう。
楽しくストレスのない生活を。