心臓血管外科手術について

重症心不全に対する補助人工心臓治療

堀尾退院 TV04当院は認定植込型補助人工心臓実施施設です。

 従来の内科的、外科的治療では助からない重症心不全に対しては心臓移植しかなかったのですが、植込み型補助人工心臓の登場によりその様相は変わりつつあります。重症心不全に対する補助人工心臓について当院での取り組みも含め解説します。

 

重症心不全の原因

 

1)心筋疾患

  拡張型心筋症、肥大型心筋症、心筋炎、

   サルコイドーシス、アミロイドーシス

2)冠動脈疾患

  急性心筋梗塞、虚血性心筋症

3)弁膜症

4)先天性心疾患

5)その他

 

重症心不全に対する治療

 

内科治療
ペースメーカー治療(ICT、CRT)
外科治療(心臓手術)
心臓移植、補助人工心臓、
細胞治療
 
補助人工心臓

重症心不全の患者さんで、自己の心臓では全身の循環が維持できない場合があります。強心剤等の内科的治療でも悪化する場合には補助人工心臓治療が残された唯一の治療となります。

 

経皮的人工心肺装置(V-A ECMO: PCPS)

 

緊急の場合は経皮的に静脈から血液を吸引して動脈に返す経皮的補助人工心肺装置( PCPS)を行いますが、左心室への後負荷がかかり完全に補助できないことや装着期間に限界があるためためPCPSでの補助も難しい場合があります。

PCPS: percutaneous cardiopulmonary support

V-A ECMO: Veno-Arterial extracorporeal membrane oxygenation

 

インペラ(IMPELLA)

 

2017年より施設限定で経皮的にカテーテルで左室を直接的に循環補助するインペラ(IMPELLA)が導入されました。当院もインペラ(IMPELLA)認定施設になっています。インペラ(IMPELLA)によってカテーテルで簡単に左室補助できることになりました。しかし、左心室の回復が望めず長期の補助が必要な場合は手術によって左心室に脱血管、大動脈へ送血管を植え付けて補助ポンプによる体外式補助人工心臓か植込み型補助人工心臓が必要となります。

当院でもいち早く導入し、2017年12月下旬に緊急重症心不全症例の患者さんに使用させていただきました(全国で4施設目、東海エリアでは初)。2019年1月までに29例(内PCPSと併用するECPELLAは14例)に行いました。うち19例が重症の急性心筋梗塞を含む冠動脈疾患でした。75%の症例に血圧、心拍出量、尿量の増加を有意に認めました。54%が離脱可能となり30日生存率はインペラ単独で88%、ECPELLAで33%でした。救命不可能な重症心原性ショック症例に対して極めて有効な治療法となりました。

 

体外式補助人工心臓(LVAD)

 

左心室から脱血して大動脈に送血する体外式補助人工心臓は体外に拍動型ポンプを設置します。感染、臓器不全等がない限り相当期間補助が可能で心臓移植を待つ場合があります。

 

植込み型補助人工心臓

 

最近では、植込み型補助人工心臓が日本でも可能になりました。遠心型のポンプを体内に植込み、動力源を体外につなぐ方法で、全身状態がよければ普通の生活が可能です。当院は植込み型補助人工心臓実施施設に認定されています。

 

補助人工肺(V-V ECMO)

 

重症呼吸不全で人工呼吸器では全身の酸素化が不可能な場合に使用します。体の静脈(主に上大静脈)の血液を管で体外に導き人工肺で酸素化して体の静脈(下大静脈)に戻します。V-A ECMO (PCPS)と違って、V-V ECMOは循環不全を補助することはできず、心機能が良好な場合にしか使用できませんが、侵襲が少ないのが利点です。悪くなった肺の代わりに血液を酸素化するもので、本来の肺をよくするものではありません。V-V ECMOで肺を休めその間に肺の状態をよくしなければV-V ECMOから脱却することはできまません。インペラ(IMPELLA)の登場で、心肺機能の悪い場合にV-V ECMOとIMPELLAの併用で侵襲の少ない心肺補助が可能となります。しかし、本来の肺の状態がよくならない限り救命が難しいのが現状です。

V-V ECMO: Veno-venous extracorporeal membrane oxygenation

V-A ECMO: Veno-Arterial extracorporeal membrane oxygenation

 

  利点 欠点

PCPS

経皮的人工心肺装置(PCPS)

 

鼡径部の小さな切開のみ

で簡単に装着可能

下肢阻血
長期使用困難
十分な拍出が困難
著明な左室不全には不十分

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インペラ(IMPELLA)

 

鼡径部の小さな切開のみ

で簡単に装着可能

 

長期使用困難
十分な拍出が困難

LVAD

体外式補助人工心臓(LVAD)

 

長期使用可能

歩行も可能

感染

脳梗塞

退院が不可能

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植込み型補助人工心臓

 

永続的使用可能
自宅での生活が可能

感染

脳梗塞

適応審査が厳しい

     

 劇症型心筋炎に対する両心補助人工心臓による救命

風邪症状から突然心機能が極端に悪化し死に至ることもある 劇症型心筋炎に対してはPCPSでは救命できないこともあります。当院では両心補助人工心臓を使った手術を行っています。

BiVAD 心筋炎 ICU BIVAD心筋炎ポンプ
両心補助人工心臓によるICU管理 両心補助人工心臓のポンプ