心臓病を理解しよう

心筋梗塞合併症

狭心症、心筋梗塞の原因と治療は狭心症、心筋梗塞の項で詳しく説明しましたが、心筋梗塞を起こした場合あるいは長い間狭心症を患った場合には心臓にいろいろな合併症をもたらす場合があります。急性心筋梗塞が原因で合併症を起こし命にかかわる場合から慢性的にゆっくり進行する合併症までさまざまあります。

 

・左室破裂
・心室中隔穿孔
・僧帽弁閉鎖不全(乳頭筋不全)
・左心室瘤
・虚血性心筋症

 

当院ではこのような症例を多く経験しておりますが、まれな合併症でもあり、診断から治療まで苦労を要する場合があります。治療は原因である冠動脈の治療(カテーテル治療、冠動脈バイパス術)と同時に合併症に対する治療を行います。

 

 

左室破裂

左室破裂とは

名前から恐ろしくとても助かりそうにない病気ですが、その名のとおり医師が手も足も出ないほど突然死するものから、手術をして何とか助かる場合まであります。急性心筋梗塞の合併症として起こります。心筋梗塞で死亡する原因の10%が左室破裂といわれており。また心筋梗塞の治療として血液をさらさらにする薬を近年多用することによって増加傾向にあると言われています。心筋梗塞発症の1日から4日以内にほとんど出現すると言われています。心筋梗塞により心室壁が壊死を起こし腐りかけて心室の壁の一部が裂けて出血することを言います。裂ける程度によってじわじわと出血するタイプから、大出血するものまであります。大出血するものは救命できる確率は非常に低いです。じわじわ出血するものでも心臓を圧迫しショック状態になり緊急での処置が必要です。

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症状、診断は

心筋梗塞後に、突然血圧の低下、呼吸困難が出現したら左室破裂を疑います。何らかの蘇生が必要です。出血量が少ない場合はショックにならない場合もあります。診断は心臓超音波検査で心臓の周囲に血液らしい液が認めることによって可能です 。

 

 

治療法は

手術以外に手はありませんが、出血の程度が少ない場合は時間的な余裕もあります。なるべく早く心臓外科病院に救急搬送する必要があります。手術できないほど状態が不良の場合はカテーテルで吸引する場合もありますが、出血がひどい場合はその後手術が必要となります。手術は胸を開け、出血した血液を吸引します。出血している部位を止血しますが、出血の程度、左室の破裂の程度によっては手術が難航する場合があります。止血方法は、じわじわ出血する場合は心臓を止めずに止血剤等で止血が可能な場合もあります。出血がひどい場合は人工心肺装置で心臓を止めて出血部を縫って止めます。心筋梗塞で脆くなっているため止血が困難な場合もあります。

 

 

その後の経過は

術前のショック状態からの次第に回復してきます。手術で出血を止めることができても、その後の回復は困難な場合もあります。

 

 

心室中隔穿孔

心室中隔穿孔とは

急性心筋梗塞の2%に出現すると言われています。心筋梗塞によって右室と左室の間の筋肉が壊死し穴が開くことによって左心室と右心室の交通ができ、心機能がさらに悪化する病気です。心筋梗塞の症状以外にさらに悪化する呼吸不全血圧低下があれば左室破裂、僧帽弁閉鎖不全とともに心室中隔穿孔を疑う必要があります。

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症状、診断は

胸痛の後次第に呼吸困難が続く場合に心室中隔穿孔を疑います。聴診で心雑音が聞こえます。心臓超音波検査でも心室中隔での血流が認めます。どの程度の大きさの穴(穿孔)があいているかによって、ショック状態に至るものから、軽い呼吸困難まであります。カテーテル検査で穿孔部の右室左室間の血液の流れがどの程度かを調べることもあります。

vs190522-001 超音波検査での心室中隔での血流

 

治療法は

心機能の悪化により呼吸不全、血圧低下が急激に出現しますので、重症心不全に対する治療が必要になります。心不全の程度によって、強心剤、人工呼吸、大動脈内バルーンポンプが必要になります。さらに悪化すると経皮体外循環(PCPS)、経皮カテーテル左心補助装置(IMPELLA)が必要になります。IMPELLAの登場により、心不全状態を改善することが可能になりました。これにより心筋梗塞により痛んで脆くなった心筋がある程度回復して心筋が縫いやすくなるまで待つことが可能になりました。2週間ほど待つことができれば手術の成功率も高くなるという報告が多くあります。手術は人工心肺装置で体外循環を行い、心臓を止めて修復します。修復は穿孔した心室中隔を布状の膜で縫って穴を閉じます。

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その後の経過は

急性心筋梗塞そして術前のショック状態を伴っており、回復には時間がかかります。手術の危険性、合併症率も高くなります。

 

 

僧帽弁閉鎖不全

急性僧帽弁閉鎖不全(急性乳頭筋断裂)とは

心筋梗塞により左室の僧帽弁を支えている乳頭筋がちぎれて僧帽弁が突然逆流する恐ろしい合併症です。弁の逆流の程度でショック状態で救命できないものから、緊急手術でなんとか救命できるものまであります。

 

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症状、診断は

突然の呼吸困難からショック状態となります。心雑音が決め手ですが、心臓超音波検査で逆流を認めます。

 

治療法は

ショック状態が改善しない場合、心不全が悪化する場合は緊急手術が必要です。弁を修復するか人工弁に置換する手術が必要です。

 

その後の経過は

術前の状態によって回復の程度が変わってきますが、緊急での手術の場合は危険率が高くなります。

 

 

慢性僧帽弁閉鎖不全(乳頭筋不全)とは

心筋梗塞により左室の僧帽弁を支えている乳頭筋の機能が悪化し僧帽弁が逆流する病気です。乳頭筋が伸びる場合と乳頭筋の付着部の左室壁が拡張する場合があります。心臓の機能の悪化も合併することがあります。

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症状、診断は

息切れ、呼吸困難、胸痛を認めます。診断は心臓超音波検査で容易に判断できます。

 

治療法は

僧帽弁に関しては僧帽弁閉鎖不全症と同じような治療方針となりますが(心臓弁膜症の項参照)、同時に原因である冠動脈の病変を治療する必要があります。狭心症の治療が必要な場合、冠動脈バイパス術と同時に僧帽弁の修復術を行います。手術は、修復術あるいは程度がひどい場合は弁置換術となります。閉鎖不全の程度が軽い場合は手術をせずに様子を見る場合もあります。冠動脈の治療(カテーテル治療、冠動脈バイパス術)を行うのみの場合もあります。

 

その後の経過は

弁の逆流の程度、心機能を心臓超音波検査で定期的に経過観察する必要があります。

 

 

左心室瘤

左心室瘤とは

心筋梗塞で心筋が薄くもろくなりこぶのように膨らむ病気です。左心室は楕円形で収縮する筋肉の塊ですが、瘤になると収縮しても血液が全身に行きにくくなり、心機能の低下をきたします。

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症状、診断は

呼吸困難、息切れ、動悸などの心不全症状と狭心症(胸痛)の症状があります。心臓超音波検査、心臓CTそしてカテーテルでの左室造影検査で診断は可能です。

 

治療法は

程度が軽い場合は、そのまま内科的に心不全の治療を行うことも可能です。瘤のため心臓からの血液の拍出が不良で、息切れ、呼吸困難が続く場合は左心室瘤を切除する手術もあります。瘤になっている部分を切開し、瘤の根元の部分からパッチをあててふさぎます。切除することによって、心機能が良好になります。 

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その後の経過は

左心室機能が良好になります。まったくもとの心臓に戻るわけではありませんが、呼吸困難、息切れ等の心不全の症状が改善します。そして生活レベルがアップします。

 

 

虚血性心筋症

虚血性心筋症とは

狭心症、心筋梗塞を合併し、心臓への血の巡りが悪いのが原因で心臓全体の収縮力が落ちて、左室壁が拡大し心機能が悪化する病気です。欧米では拡張型心筋症の原因として非常に多い病気ですが、日本でも増加傾向にあります。

 

症状、診断は

心不全の症状として息苦しい、呼吸困難などがあります。また、心室性不整脈などのおそろしい不整脈も見られます。心臓超音波検査、心臓CTで診断は可能です。

 

治療法は

冠動脈に病変がある場合は、カテーテル治療、冠動脈バイパス術などで原因治療を行います。心筋症に対しては、内科的に心臓に負担をかけない治療が主となります。しかし限界の場合は心臓移植、左室形成手術(バチスタ手術)となりますが、移植は現実的に不可能で、左室形成手術の効果にも限界があります。僧帽弁閉鎖不全症を合併することが多くさらに心臓に負担をかけ状態が悪化することがあります。その場合は僧帽弁の手術をして少しでも弱った心臓の負担をとることもあります。人工弁置換術あるいは弁形成術ですが、心臓そのものの改善させるわけではありませんが症状の改善が見込まれます。

また、心室性不整脈がひどい場合、心機能の悪化が心室の刺激の不良によるもの(脚ブロック)であれば、植え込み型除細動器移植術、両心室ペースメーカー移植術の適応となることがあります。

さらには、植込み型補助人工心臓、心臓移植の適応になることがあります。

 

その後の経過は

重症の場合、心不全、不整脈で突然死を起こす危険性があります。程度が軽い場合はそのまま心不全症状が出現せずに経過する場合もあります。