心臓病を理解しよう

心臓内腫瘤

心臓の中にできる腫瘤で、非常にまれですが、1000人に1人か2人はあるといわれています。4分の3が良性で、4分の1が悪性といわれています。良性腫瘍の半分が粘液腫、悪性の75%が肉腫と報告されています。場所が心臓ということで心臓超音波をしない限り発見が非常に難しく、かつ腫瘍の正確な診断も困難で、診断と治療までに時間と労力を費やすことがあります。

 

心臓内良性腫瘍 心臓内悪性腫瘍
○良性 ○悪性
粘液腫 肉腫
乳頭腫 悪性リンパ腫
脂肪腫 転移性悪性腫瘍
線維腫  
血管腫  
血栓  
石灰化  

 

 

心臓内粘液腫

心臓腫瘤のなかで最も多い病気です。粘液状あるいはゼリー状のやわらかい腫瘤が心臓の中にできて次第に大きくなる病気です。癌のように悪性ではなく良性ですが、心臓の中にあって、心臓の機能を悪化させたり、腫瘤の一部が飛んで脳梗塞などを引き起こす恐ろしい病気で、手術で切除する必要のある病気です。

 

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原因は

不明です。大人に多い病気です。

 

症状は

・息苦しい
・呼吸困難
これは腫瘤が心臓の中を占拠して心臓の機能を悪化させることによる心不全症状です。

 

・脳梗塞
・下肢塞栓
これはゼリー状の腫瘤が拍動する心臓の中で一部はずれて飛び体内の血管に詰まることによるものです。頭につまると脳梗塞、足につまると下肢動脈閉塞で足が痛くなったり冷たくなったりします。

 

・発熱
これは腫瘤そのものからでる発熱物質による症状の場合があります。腫瘤にばい菌がくっつき感染する場合もあります。非常にまれです。

 

この病気による特別の症状はありませんが、原因不明でこのような症状がある場合は心臓超音波検査をお勧めします。

 

病院での診察、検査は

まず、お話を聞かせていただき、診察をさせていただきますが、それだけでは診断できません。聴診等の一般的な診察をしてもこの病気を発見することはまず不可能です。よって心不全などでひどくなって検査をして診断できる場合から、たまたま心臓超音波検査のスクリーニングで発見される場合までさまざまです。

 

胸部レントゲン検査

スクリーニングとして心臓、肺の状態を大まかに見るのに役立ちます。

 

心臓超音波検査が最大の診断方法

心臓超音波検査が唯一と言っていいほどの診断方法です。心臓の中にあるこぶ上のものを発見する頃によって診断します。大きさ、場所、心臓の機能を傷害していないかどうか、心臓外にも進展していないかどうか、心臓肺に水がたまっていないかどうか、いろいろな判断をして治療方針を決めていく上で最大の武器となります。

CT、MRIでも診断できる場合があります。

 

血液検査で何がわかる?

原因不明の炎症所見(白血球上昇、CRP上昇)をきたすことがありますが、粘液腫を診断する血液検査はありません。

粘液腫と診断した場合あるいは心臓内腫瘤と診断した場合、これ以上の検査は基本的に必要ありません。腫瘤が悪性かどうかを判断するためにカテーテルを心臓の中に入れて腫瘤の一部をつまんで組織検査をする場合もありますが、腫瘤の一部が飛んで脳梗塞になる危険性もあるので腫瘤の性状をみて慎重に行います。

 

治療の必要があるのは

基本的には手術が必要です。心機能の悪化、脳梗塞の危険がありますので、なるべく早く手術をお勧めします。ただし、患者様の状態があまりにも悪い場合は手術が危険な場合もあります。また腫瘤が小さくて脳梗塞の危険性が極めて低い場合にはしばらく様子を見ることもひとつの方法です。

 

治療しない場合どういうことが

心不全を繰りかえし、命に関わってきます。また脳梗塞で命にかかわるばあいがあります。

 

治療の方法は

手術:
胸を約12cm切開し、心臓を開けます。腫瘤が心房内にある場合には右肋間小開胸での手術も可能です。心臓を止め、心臓内の血液もいったん空にするため人工心肺装置で全身の循環を維持させます。心臓を停止させて右心房または左房を切開し、腫瘤を摘出します。手術時間は合併手術、合併症がない場合は約2時間です。

 

薬物療法:
薬で粘液腫を小さくすることは現在のところできません。

 

手術の危険性は

人工心肺装置を取り付け、心臓を停止させますので、少なからず危険性はあります。心機能が一時的に悪化したり、不整脈を起こすこともあります。また、脳梗塞等の合併症も報告されています。

 

手術後2週間で退院

合併症がない場合2週間で退院は可能です。2ヶ月で重労働の仕事も可能です。

術前の心臓の状態、肺の状態によって回復度は違いますが、症状も改善し、まったく正常の生活、運動が可能です。

粘液腫は良性ですが、2,3割に再発があると言われています。無症状の場合でも年に1回の診察をお勧めします。

 

 

その他の心臓良性腫瘍

良性腫瘍とは、癌と違いどんどん大きくなることもなく、また他の場所にもできたり(転移)しないことです。しかし、心臓の中にできる良性腫瘍はそもそも良性かどうか診断が難しく、かつ脳へ飛んで脳塞栓になったり、心臓の機能を邪魔したり、不整脈を起こすこともありますので、何らかの治療、慎重な経過観察が必要となることが多いです。乳頭腫、線維腫、血管腫、脂肪腫等多くの種類の良性腫瘍があります。

 

 

繊維腫

珍しい腫瘤ですが、子供のときに多く発見され、何らかの治療を必要とすることがあります。大人でも発見されることがあります。巨大な腫瘤の場合が多く、心臓の機能を悪化させたり、あるいは腫瘤切除が不可能になることもあります。しかし、良性で進行が非常に遅いかほとんど大きくならない場合もあり、慎重な経過観察で充分な場合もあります。

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診断、治療法は

心臓粘液腫と同じです。腫瘤の大きさ、場所、症状によって治療法が決定されます。悪性の危険性がないかどうかの検査も必要でカテーテルによる一部の採取あるいは手術による採取あるいは切除が必要です。良性と判明し小さくかつ心臓に悪影響を及ぼさなければ経過観察で様子をみることもあります。手術は腫瘤の大きさ、場所によって切除が簡単な場合から難しい場合、心臓の修復を必要とする場合があります。人工心肺装置を取り付けたり、心臓を停止させたりしますので、少なからず危険性はあります。

 

 

心臓悪性腫瘍

心臓の中にできる悪性腫瘍で非常にまれですが、存在します。当院ではこの5年間に4名の患者様の手術をさせていただきました。

肉腫、悪性リンパ腫とまれな組織の悪性腫瘍が占めます。他に癌の転移もあります。

 

胸部レントゲン 心臓超音波検査
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心臓内悪性リンパ腫  
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症状

腫瘤の大きさ、場所、腫瘍の組織によって症状もさまざまです。腫瘤が心臓に占拠することにより、心不全症状(息切れ、呼吸困難)があります。また、不整脈もよく出現します。悪性腫瘍の末期であれば全身の衰弱が見られます。

 

診断

まず診察させていただき心不全症状、呼吸状態を見させていただきます。心臓超音波検査、CTを行い心臓腫瘤を認めることで診断は可能となります。悪性腫瘍なので他の臓器に進展あるいは転移していないかを超音波検査、CTで判断します。また心臓腫瘤が画像診断で判明しても腫瘤の細胞が悪性か良性か調べる必要があります。ただ、画像診断で大きさ、形からある程度悪性かどうか推定できます。しかし確定診断として腫瘤を採取して悪性かどうかを診断する必要があります。採取方法はカテーテルで一部を取る方法と手術で採取する方法があります。

 

治療

薬物療法(抗がん剤)、放射線療法、手術があります。悪性腫瘍ですからそのままにしておきますと、次第に大きくなり死亡します。しかし、抗がん剤、放射線療法によく反応する場合も多いです。しかし、腫瘤が心臓を占拠して命に関わる場合、出血して心臓を圧迫している場合は手術で取り除く必要があります。

 

 

心臓内血栓

心臓内に血液の固まりができる病気で、心臓の病気あるいは血液が固まりやすい病気の方に合併する病気です。健常の方にはまずできません。

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どのような心臓病に合併するの?

弁膜症、不整脈、心筋梗塞、心室瘤などで、心臓内の血液の流れがよどむことによって血液が固まりやすくなり血栓ができます。心臓弁膜症特に僧帽弁狭窄症または心房細動の患者さんには左房に、心筋梗塞、心室瘤の患者さんには左心室内にできやすいです。

静脈の血栓症では右房、右室内にできる場合があり、肺梗塞の原因となります。肺梗塞の項を参照ください。

 

症状

血栓はそれほど大きくないので症状はほとんどありませんが、心臓病を合併する場合がほとんどですのでその病気の症状があります。

心臓内血栓でもっとも重要なのは、これがはずれて全身に飛んでいき、血栓塞栓症を起こすことです。脳梗塞、下肢血栓閉塞症、腸壊死となる危険性があります。

 

診断

心臓超音波検査が確実です。造影CT、MRIでも可能です。

 

治療

血栓を除去するには手術しか方法がありません。血栓が心臓内からはずれそうな場合は手術での除去が必要です。血栓が心臓内に強くひっついていて、はずれそうにない場合はそのまま経過観察で様子をみることもあります。これ以上大きな血栓にならないように、抗凝固剤を投与して経過観察します。本来の心臓病の治療を平行して行います。