心臓血管外科手術について

冠動脈バイパス術

 

3000例を超えるバイパス手術の経験

 

1998年開設以来当院での冠動脈バイパス術は3000例を超えました(弁膜症等の合併手術を含む)。

最近の10年間での単独冠動脈バイパス術は1097例です。緊急手術での死亡率は8%、予定手術での死亡率は1%でした。多くの経験からさらに安全かつ確実な冠動脈バイパス手術に臨みます。

 

CABG

心臓に栄養を与える冠動脈が狭窄或いは閉塞を来たし、それにより心筋梗塞、狭心症をおこします。程度の軽いもの或いは病変の形態によりカテーテルで 狭窄部を膨らましたり、ステントで膨らましたままにすることも可能ですが、程度の強いもの、カテーテルでは困難なもの、何度も再発するもの、緊急性のもの は手術が必要です。
手術は病変部位より末梢の正常の冠動脈にバイパス手術を行います。バイパスは、内胸動脈、上腕の動脈(橈骨動脈)、下肢の静脈(大伏在静脈)を利用します。

 

バイパスグラフトの選択

冠動脈にバイパスするグラフトは本人のサイズのよく似た血管を使用します。バイパスのための人工血管は開発中ですが開存性で自己の血管が勝ります。以下にバイパスの血管を列挙します。

1、内胸動脈: 胸の胸壁の裏にある血管で第一選択となります。左右2本ありますが、両方使用する場合と片方(左)を使用する場合があります。開存性は非常に良好です。

2、大伏在静脈:足の表面にある静脈です。採取が容易で長く採取できるため従来より良く使用されます。静脈グラフトとして使い勝手がいいのですが、耐久性に問題があり10年後に30%程度で閉塞する危険性があると言われています。最近では採取方法、術後の投薬の進歩により耐久性も良好となりました。

3、橈骨動脈:手の前腕にある動脈です。動脈グラフトとして耐久性が期待されていますが、静脈グラフトと比較しても差がないと言われています。下肢静脈瘤等で大伏在静脈が使用不可能の場合に使用します。

4、胃大網動脈:胃の周囲に走っている動脈で、これを採取して使用します。動脈グラフトとして耐久性がいいと言われていますが、血流量が少ない欠点があります。また、お腹を切らないといけない欠点もあります。

全動脈グラフトか動静脈グラフトか

心臓外科の学会等でよく議論されています。全動脈グラフトは耐久性がよく動静脈グラフトは耐久性が悪いと言われてますが、遠隔期の死亡率、再治療率では差があるという報告と差がないという報告があります。学会で権威ある先生方の中に全動脈グラフトを熱狂的に推薦する方がおられますが、実際の世界では動静脈グラフトが80%以上で使用されており増加傾向です。全動脈グラフトでは採取に時間がかかる、胸部創感染の率が高い、長さに制限があって使用ができないことがある等の理由があります。動静脈グラフトは短時間で手術しやすい安全な手術と言えます。またカテーテル治療の進歩もあり長期成績も良好です。

当院では左内胸動脈と大伏在静脈グラフト1本での動静脈グラフト多枝バイパスを原則としています。

 

手術方法

 

人工心肺装置を使用せず動いたままの心臓にバイパスする方法(オフポンプバイパス術)でほとんどの患者さんに(96%)おこなっています。この手術方法により、80歳以上の高齢者、重症合併症患者、緊急手術でも比較的安全に行えるようになりました。ただし心機能が悪くかつバイパス吻合する場所によっては血圧が保てない場合が予測できる場合は人工心肺装置をもちいてのオンポンプバイパス術を行います。その場合でも心臓を止めることはありません。

手術時間は2枝バイパスで2時間,3枝バイパスで2時間半(平均)です。入院日数は合併症がない場合4日~10日(平均7日)程です。

バイパスする冠動脈が左冠動脈に限局している場合は右肋間皮膚小切開によるバイパス手術(MICSーCABG)を行っています。ダビンチロボットを使用して完全内視鏡下での内胸動脈グラフト採取を行って小切開によるバイパス手術(Robotic MIDCAB)を行っています。下肢の静脈(大伏在静脈)グラフト採取にも内視鏡下での採取を行って傷口を最小限にするように心がけています。

 

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ダヴィンチロボットによる内胸動脈採取 MIDCAB(左肋間小切開バイパス手術)

 

 

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手術中にバイパスしたグラフトが良好に働いているかを超音波血流量計で即座に判断します。

セクエンシャルバイパス法:静脈斜切開平行四辺形吻合(oblique venotomy with rhomboid anastomosis)による新しいセクエンシャルバイパス術

 

静脈バイパスグラフトの質を高めるためにセクエンシャルバイパスは採取静脈の節約、大動脈吻合数の節約のみならず、高流量を得られることによる静脈抵抗の低下が期待でき開存率も良好です。吻合法に関しては、従来よりダイアモンド吻合と平行吻合があります。この2方法の長所を生かした中間的な吻合法(平行四辺形吻合)を行い、大きな切開吻合口と歪みのないグラフト走行を得られ、高流量が得られます。バイパスしたグラフトが良く流れ長持ちする方法です。当院では10年前からこの方法を採用しています。

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  静脈斜切開平行四辺形吻合(oblique venotomy with rhomboid anastomosis)

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1本の静脈グラフトで2か所以上の冠動脈にバイパスします。静脈グラフトも質のいいものを少なめに採取でき吻合数も少なく、小さな傷口で手術時間の短縮になります。

 

過去10年間の  静脈斜切開平行四辺形セクエンシャル吻合の成績

 

当院で2005年1月から2014年3月までに経験した冠動脈バイパス術1129例の内3枝バイパス以上が659例でありそのうちセクエンシャル吻合を行ったのは243例でした。年齢は69.4±9.4 歳(38~89歳)で、男183例、女60例で、緊急症例は52例(21.3%)であった。単独CABGは220例でそのうちオフポンプバイパスは204(93%)であった。平均手術時間は3枝:3h34m(2h20-6h25m)、4枝:4h09m(3h11-5:56m)、5枝:4h42m(3h50-5h25m)であった。セクエンシャルグラフトの早期開存率は98%でした。

 

最近の冠動脈バイパス術の成績

 

2014年の冠動脈バイパス術は91例(弁膜症等合併を含む)でした。単独冠動脈バイパス手術71例中オフポンプ手術は70例(99%)で、緊急症例、状態の不安定な症例、低心機能の症例でもオフポンプ手術がすべて可能となりました。 LAD1枝病変に対しては左第5肋間小切開によるMICS-OPCABを4例に行いました。冠動脈バイパス術後の再手術例に対し回旋枝に対しても左肋間小切開によるMICS-OPCABを行うことができました。 1本のグラフトで、2〜3か所のバイパスを行うセクエンシャルバイパスは50例行いました。3枝以上のバイパス48例では46例(96%)にセクエンシャルバイパスを行っています。グラフト採取、吻合数を減らし、手術時間、手術侵襲を軽減することができます。またグラフト斜切開平行四辺形吻合にて質の高い吻合を行うことができました。当院では術後のグラフト開存を全例超音波による内胸動脈血流と腎機能正常例には造影CTで確認しています。造影CT検査、超音波検査を施行しえた190グラフト中186グラフトの開存を認め98%の開存率でした。

 

MICSーCABG(右肋間小切開によるバイパス手術)

 

バイパスする冠動脈が左冠動脈に限局している場合は右肋間皮膚小切開によるバイパス手術(MICSーCABG)を行っています。

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右肋間小切開での冠動脈吻合 術直後の創部

 

 

ダヴィンチロボットによる冠動脈バイパス術

 

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胸を切らず、肋骨を裏返しにせずに採取 ダヴィンチロボット2017年より開始

内胸動脈はもともと胸骨の裏に隠れていて見えにくく、採取が困難。胸を大きく裏返すように牽引させねばならず、術後の痛みにつながるが、ダヴィンチでは胸を牽引(けんいん)せずに正確な採取が可能で、質の高いグラフト(血管)を安全に確保、かつ痛みの軽減が期待できます。

 

冠動脈バイパス術における、内視鏡下大伏在静脈グラフト採取

 

冠動脈バイパス術において、バイパスする血管の一つとして足の表面に走る大伏在静脈は大事な役目を果たしほとんどの冠動脈バイパス術において大伏在静脈は採取されます。

従来なら20cmから30cmの大伏在静脈を採取するにはその長さの分だけ皮膚切開が必要ですが、そのため、創部の感染、痛みの合併が起こります。心臓をよくする手術のためその程度の合併症は仕方ないですむかもしれませんが、なるべくなら小さな傷口で足の傷口の心配のない手術が望まれます。当院では、過去(2005年~2007年)に120人近い患者さんに内視鏡下大伏在静脈グラフト採取を行っていましたが、新しい機器を使用して再開しました。

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術後の創部膝に1.5cm程度の傷口です 膝の傷から大伏在静脈を剥離
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内視鏡でさらに奥の大伏在静脈を剥離 20cm離れた大伏在静脈の端を内視鏡で結紮切断
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大伏在静脈を剥離する機器です 大伏在静脈の枝を切開し、切断する機器です