心臓血管外科手術について

弁置換術、弁修復術

 

2000例の豊富な手術経験

 

当院開設以来行われた心臓弁膜症手術は2000例(1998-2020)です。大動脈弁手術は1200例、僧帽弁手術は830例です。形成術は360例です(重複を含む、四捨五入)。

 

小さな傷口での手術(MICS手術)、ダヴィンチロボットによる手術を行っています。

 

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僧帽弁手術 大動脈弁手術 ダヴィンチロボット支援手術

 

 心臓弁膜症の手術

 

 心臓には4つの弁(大動脈弁、僧帽弁、肺動脈弁、三尖弁)がありこれらは血液の流れを正しい方向へ効果的に送る役目を果たしています。これらの弁に狭窄或いは閉鎖不全をきたした場合、心臓には大きな負担となりすぐ疲れる、息切れがする、胸が痛む等の症状が現れ心臓の寿命も短くなります。左心室の入り口にある僧帽弁、出口にある大動脈弁が、右心室にある肺動脈弁、三尖弁に比べ仕事量も多く、成人の場合はほとんどが大動脈弁、僧帽弁の異常であり手術で治療することになります。手術は、悪い弁を修復(形成術)するか、人工弁に取り替える方法があります。

心臓弁膜症については心臓血管病を理解しように詳しく述べています。

 

僧帽弁修復のコピー

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弁形成術 機械弁 生体弁

 

 

胸の前面を正中切開で行う方法か、右肋間の小切開(MICS)でのアプローチになります。さらに小さな傷でダヴィンチロボットを使用したMICS手術も行っています。

人工心肺装置をとりつけ全身の循環を本人の心臓と肺から人工心肺装置に委ねます。一時的に心臓を止めて弁の修復あるいは弁置換を行います。手術時間は2時間から4時間です。入院日数は合併症がない場合7日~12日(平均10日)程です。

 

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MICS手術術後の患者さん MICSによる弁膜症手術

 

弁形成術

 

僧帽弁修復のコピー

 

自身の弁を人工弁に取り替えずに、弁の異常な部分だけを修復する手術です。僧帽弁閉鎖不全症に主に行なっている手術方法です。僧帽弁狭窄症に対して切開する方法も稀に行なわれます。大動脈弁に対しても最近は行っています。あるいは他の弁の手術と合併した三尖弁閉鎖不全症に対しても形成術が行なわれます。僧帽弁閉鎖不全症ではその逆流の原因が弁を支持する腱索という糸が切れた場合、その部分を切除して縫い合わせる方法が可能です。これは2つある僧帽弁の中でも後尖でしか、修復は不可能です。弁尖の腱索が切れたりゆるんだりして、逆流を起こす場合は、その腱索を新しく作って(人工腱索)補強する方法があります。さらに逆流で弁自体が伸びて弁輪が拡大している場合に弁の周囲をリングで補強します。

弁修復術は自己の弁を使用しますので、異物である人工弁と比べ様々なメリットがあります。一つは血栓ができにくいためにワーファリン服用の必要が無いことです。また、生きている弁のため、長持ちします。欠点としては、完璧な修復が不可能であり、多少の逆流が残ることがあることと、将来逆流が再発する可能性があることです。無理な修復はむしろ再発の危険性が残ります。

 

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 弁尖切除 弁尖縫合 人工弁輪で補強

 

人工弁置換術

修復不可能な弁に対し、人工弁に取り替える手術です。弁を切除して人工弁を植え付けます。確立された手術方法で比較的安全な手術です。人工弁には2種類あります。機械弁と生体弁です。手術後の患者さんが心配なのはこの人工弁が1、正常に機能するか2、長持ちするか3、血液と接触して血栓ができたりしないか4、薬などのややこしい管理が必要か。です。

 

  何で
作られているか
性能 耐久性 血栓が
できやすい
ワーファリン
治療
サイズ
機械弁 金属
できやすい

必ず必要

小さいものもある
生体弁 牛の心臓を包む膜
10~15年

できにくい

不要

やや大きい

 

 

機械弁

 

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金属でできた弁です。軽くかつ血栓ができないようにコーティングされています。性能は非常に良好です。金属のため磨耗はほとんど無く半永久的に使用可能です。しかし血液と接触して血栓ができやすいという欠点があります。よってワーファリンという血栓を作りにくくする薬を飲んで管理が必要になります。ワーファリンという薬はよく効く薬ですが効きすぎると出血しやすくなり、効きが悪いと血栓ができやすくなるため、常に毎日適量を飲みつづける必要があります。よってワーファリン服用が困難な方には向きません。非常に稀ですが人工弁に血栓がからんで弁の動きが悪くなったり、人工弁の周囲の組織が張り出してきて弁の動きを悪くしたり、人工弁が感染を起こしたりした場合には再手術をすることがあります。

 

 

生体弁

 

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牛の心臓を包む膜で作った人工弁です。他にブタの心臓弁を処理したものもあります。性能は機械弁と変わらず非常に良好です。長持ちに関してですが、機械弁と比べやや劣ります。多くの報告がありますが、平均の劣化期間は10~15年と考えられていますが個人差(その生体の差)もあります。ただし高齢の方は劣化しにくいとも言われています。利点ですが、血液と接触しても血栓ができにくく、ワーファリンの永久的な服用は必要ではありません。よって術後のワーファリン服用という面倒な管理は必要ありません。

 

 

機械弁か生体弁か?

二つの長所、短所を考慮して個人個人にあった弁を選ぶ必要があります。一般的には若い方には機械弁、高齢の方には生体弁です。若い方でも将来出産を考えている方、激しい運動をされる方はワーファリンの副作用を考慮して生体弁を薦めています。最近の傾向として生体弁が多くなってきています。

 

 

手術治療で心臓はもとに戻る?

弁の逆流、狭窄は手術により正常にもどります。しかし、弁の異常によって長年負担のかかってきた心臓や肺はそう簡単にもとの正常な機能に戻ることはありません。しかし、もうそれ以上負担がかかることはなく、徐々に改善します。そのため、心臓の機能が末期的になる前に手術をしたほうが、心臓の回復も期待できます。

 

 

手術の危険性は?

極めて安全な手術になってきましたが、手術の危険性は0%ではありません。患者さんの体力、年令、合併症等によって影響されます。手術をする主治医によく説明を聞いてご理解ください。心臓弁膜症の合併症としては、術後の出血、心不全、不整脈、呼吸障害、脳梗塞、創感染があります。危険率に関しては手術死亡率約4%との報告があります。当院の手術成績も御参考ください。 

 

 

手術後2週間で退院

合併症がない場合は術後2週間で退院が可能となります。

 

 

退院後どうすればいいの?

合併症がない場合、退院後の生活は手術前と同様あるいはそれ以上の生活運動が可能です。2ヶ月以降は生活仕事と制限はありません。診察ですが、しばらくは術後1,2ヶ月に1度診察が必要です。機械弁はワーファリン治療が必要ですので、常に必要です。生体弁、修復術の方は心機能が良好で投薬の必要が無ければ、外来診察は半年か1年に一回でいいかと思われます。

 

 

機械弁の患者さんが必ず飲む薬 : ワーファリンとは?

本来血液はどろどろした液体ですが、体内では固まらずに全身を循環しています。しかし、人工弁、人工血管が体内に入っている場合は、その異物に接した場合に固まりやすくなります。それを防止するために血液を固まりにくくする ワーファリンというお薬を使うことがあります。使い方が難しいお薬ですので、 次の事項について十分ご理解下さい。

 

 

ワーファリンの飲み方

人によって血液の固まりやすさが違うため、血液の固まる時間(PT:プロトロンビン タイム)を定期的に検査して、ワーファリンの適量を決めています。 ワーファリンは、決められた量を正しく守り(当院では毎朝何錠と決めています)、飲み忘れや飲み過ぎのないようにすることが大切です。 もし飲み忘れたら作用発現期間は2、3日で、1~2回の飲み忘れは、そんなに影響ありませんので、指示された量を再開して下さい。なお、 それ以上の回数を飲み忘れた場合には、医師に連絡して下さい。

 

 

副作用について

ワーファリンは、患者様に適した量をお渡ししていますが、まれに、ワーファリンの効果が強くあらわれて、 人体内が出血しやすくなることがあります。決められた量を正確に飲んでいれば安心なお薬ですが、次のような徴候が強く現れたら、医師に連絡、又は受診して下さい。

 

・鼻出血
・歯ぐきの出血
・傷口からの多量の出血
・皮下出血
・月経過多
・血痰
・赤色またはコーラ色の尿
・赤色または黒色便
・立ちくらみ
・ふらつき
・頭痛
・皮膚の内出血

 

 

一緒に飲む時に注意が必要なお薬

薬のなかには、ワーファリンと一緒に飲むとワーファリンの作用を強めたり、逆に弱めたりするお薬もあります。

ワーファリンと一緒に飲む時に注意が必要なお薬として、たとえば抗生物質や風邪薬(アスピリン、塩化リゾチーム、セラペプターゼ等)や痛み止めの薬(アスピリンなど)は作用を強めますが、逆にビタミンKの入った薬は作用を弱めます。

他の病院でお薬を貰ったり、近くの薬局でお薬を買う時は、必ず「私はワーファリンを飲んでいます。」と告げて、医師や薬剤師の指示に従って下さい。

 

 

食べるのを控える食物

ワーファリンを処方されている間は、普段の食事習慣を変えないようにし、バランスの取れた食事をすることが大切です。 ただし、次のような食物を一度にたくさん食べたり飲んだりすると、ワーファリンの効き目が変わります。

 

ワーファリンの効き目を強めるもの:

・アルコール類

 

ワーファリン効き目を弱めるもの:

・納豆 (ただし、大豆・豆腐・味噌は食べても影響はありません。また、ヨーグルトなどの乳酸菌の入ったものも影響はありません。)

・ビタミンKを多く含んでいるもの(例えばブロッコリー、ほうれん草、トマト、アスパラガス、キャベツ、レタス、海草類など)

・特に納豆はワーファリンの効き目を弱める作用が強いので、出来るだけ食べないようにして下さい。

 

 

生活上の注意

ワーファリンを処方されている間は、生活する上で次のことに注意して下さい。

 

・打撲や打ち身などをしやすい運動は避けて下さい。
・オートバイによる事故は頭を打撲しやすいので、オートバイは控えて下さい。
・刃物などを使用する時(ひげ剃りなど)は、出血しないよう注意して下さい。
・歯の治療等他の外科手術を受ける時は、必ずワーファリンを服用していることを報告して下さい。
・ワーファリンは、胎児に影響をおよぼすことがあります。 妊娠を希望される方は医師に御相談下さい。